ガラスの棺 第6話


転々と移動する光を目で追いながら、ロイドは不愉快そうに眉を寄せた。

「う~ん移動はやっぱり車かなぁ?ということは、そろそろシュナイゼルの検問だねぇ」
「恐らくは車でしょうが・・・まさか本当に墓荒らしなんて・・・」

信じられないとに、キーボードを操作していたセシルは言った。

「ルルーシュ君がまだ生きて・・・悪逆皇帝と呼ばれていた時から、おかしな団体は現れていましたから、可能性はありました」

ニーナもまた不愉快そうな顔でキーボードを打っていた。
表立って発表されていないが、実はユーフェミアの墓も過去に一度暴かれていた。
虐殺皇女と呼ばれたユーフェミアを、穢れたイレブンを粛正するために使わされた戦乙女だったのだ、聖女だったのだ、女神だったのだと主張する団体が騒ぎだし、彼女の眠る墓を暴いた。大罪を犯したユーフェミアの遺体は本国に戻ること無く、エリア11と呼ばれていた頃の日本のとある墓所に秘密裏に埋葬されており、その場所をその者達は探りだしたのだ。だがユーフェミアの遺体はそこには無く、彼らは目的を達する事無く駆けつけた警備員に逮捕された。
虐殺皇女と呼ばれた人物なのだから、被害者の遺族が墓を荒らす可能性がある。墓碑銘を書かずに葬っても情報は漏れ、必ず知られることになる。そう予想していたからこそ、墓は用意したが最初からそこにユーフェミアは埋まっていなかった。
クロヴィスに関しても同じで、虐殺命令を下したクロヴィスの墓が荒らされる事を恐れ、こちらも偽りの墓石があるだけだった。
二人の行方は当時の皇帝シャルルとその側近だけが知っているという。
そのシャルルが消えた今、遺体のある場所は誰も知らない。
だが、少なくともルルーシュが調べた限りでは、二人の遺体をブリタニアに運んだという渡航記録は無く、日本のどこかに埋葬されているはずだという。

「まあ、いいんだけどね。アレに陛下が入っているわけではないからねぇ」

クロヴィス、ユーフェミアと同じくルルーシュの墓も暴かれる恐れはあった。だからこそ、ルルーシュの遺体はこんな目立った場所には埋葬せず、別の場所に埋められていた。墓荒らしたちは、馬鹿正直にも墓所の中にたった一つだけあった墓を迷うことなく暴き、そのこに埋められていた棺を強奪した。
警備の者が即座に動いたため、棺の中までは確認できていない。
だからこそ、彼らは偽の棺を後生大事に運んでいるのだ。
その中に、悪逆皇帝の遺体があると信じて。

「それはそうですが・・・」
「このまま中が知られないならよし、知られてご遺体が無いと解れば」

それはルルーシュの遺体が他の場所にあると、世間に知られるという事だ。
本当の王家の墓が別にあると判断し、それを調べ発見するまでの間にあの墓を暴きにかかる可能性は高い。

「・・・次に暴かれる可能性が最も高いのは、スザク君のお墓ですね」

スザクの墓はユーフェミアとは違い、名前もしっかり刻まれている為どの場所にあるかは多くの者が知っていた。だからこそ、心無い物が墓を荒らす可能性があると、その区画の警備は何処よりも厳重だった。だが、王家の墓に潜り込めるような連中なのだ、スザクの墓を難なく暴いてもおかしく無い。

「そもそも、ルルーシュ陛下の騎士として彼は有名だからね。陛下を迎え入れるならば、騎士も一緒にとなるのは仕方がないよ」

警報が鳴ってすぐスザクの警備は強化されたため、今のところ無事だ。

「急がないといけないね、誰かに気付かれる前に全てを終わらせないと」
「あちらはゼロが動いています。陛下のご遺体は無事回収できるかと」

悪逆皇帝に手を貸したロイド達が動けば、その所在が知られる可能性がある。
だからここにいる三人は、今動く事は出来ない。
出来る事なら回収作業に加わりたい。
何の処置もせずに埋葬し、5年もたっているのだから遺体の損傷は激しいだろう。
そちらの処置もしたいのだが、動けない。
全てゼロに任せるしかない。

「でもいいんでしょうか。ゼロがルルーシュ君の遺体を回収なんて・・・」

悪逆皇帝の遺体を、英雄が。
そこから何かを知られてしまうのではないだろうか。
今の世の中がルルーシュの死とユーフェミアの願いを踏みにじり、どれほど愚かな道をたどっているかは、ニーナにもよく解っていた。
もし、あの皇帝と英雄のやりとりが事前に決められていた芝居だと知られれば。
あの英雄がナイトオブゼロだと知られれば。
ゼロレクイエムが無駄になってしまう。
世界が悪逆皇帝と英雄という偽りの存在に踊らされたことを知れば、再び争いが始まる可能性は残念なことに高かった。
彼らの真実を、覚悟を知り、「平和を維持しよう」と言える者はいないだろう。
なぜら、彼が命を賭して平和を求めた事を知るものでさえアレなのだ。
彼らがルルーシュの意思を継いでいたなら、こんな悲観的な事は考えなかったのだが、ルルーシュの妹ナナリー、ゼロの妻と名乗ったカグヤ、ゼロの片腕の地位にあった扇。誰よりも彼の傍にいて、その意思を目の当たりにした者たちが、ようやく訪れた平和をその手で壊そうとしているのだ。
だから、英雄が悪逆皇帝の遺体を守ろうとする行動は、ゼロの正体を知られる恐れがあるため、信頼できる別の手の者を動かすのが一番だと思うのだが。
ゼロはその言葉を聞き入れることなく動きだしてしまった。
そして、ロイドとセシルもそれを咎めることなく、当たり前の事だと受け入れていたため、ニーナとしては納得がいかないのだ。

「まあ、当然だよ。例えお亡くなりになっていても、陛下の御身に危険が迫れば、騎士は動くものでしょ」

ゼロの仮面をかぶり、個を殺して生きていたとしても、中身が彼の皇帝の騎士であったことに変わりは無いのだから。

「さて、僕たちも準備に入ろうか。陛下のご遺体を取り戻して終わりって話にはならないからね」

我が君の眠りを邪魔するのであれば、ね。

「そうですね、ではこちらも。ニーナちゃんはいいの?」
「はい。こんな事で二人のやった事が無駄になるなんて、見ていられないから」

ユーフェミア様の願った優しい世界を実現してくれた。
今も許せないけど、その事には感謝しているから。

「じゃあ、決定だね」

王の身に危機が迫った時、動くのは騎士だけなんて決まりは無いからね。
検問を避けて逃げようと足掻いている愚か者達は、間もなくシュナイゼルの手に落ちるだろう。
だが、これは始まりに過ぎない。
一度起きた事はまた起きる。
我が君の眠りを妨げるものは、誰であれ敵とみなす。
それが、世界であっても。
科学者たちは、不敵に笑うとモニターに目を向けた。

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